院長からの処方箋Letter

新型コロナウイルスについて-2-

2020.03.22

前回の記載から1カ月ほど経過して、新型コロナウイルスに関する事実が次第に解明されてきました。
開業医として実際に診療している現場から見えてきたことも踏まえて現状について書きたいと思います。


【1】行動の自粛はどの程度必要なのか

新型コロナウイルスの感染力は予想されていた程には高くないことが分かりました。
1人の患者から感染する人は約1人という統計データが示されました。
このデータはインフルエンザのような指定伝染病よりも低い感染力だということです。
5人以上の集団感染がクラスターとして報道されていますが、集団全体の人数が分からなければ意味がありません。
例えば1000人の濃厚接触者の内5人が感染した場合はどう考えるのが良いのでしょうか。
実際に濃厚接触者の感染率は統計的に低く、濃厚接触をしない場合にはほぼ感染しないと考えられます。
要はインフルエンザに対する予防が行われていれば十分予防できる程度の感染力だと分かってきたのです。
こうした事実から通常の日常生活まで過度に自粛するのは効果的ではないと言えます。
風通しの良い公園などで散歩をしても、感染のリスクはほとんどありません。
折角桜の咲く季節なのですから、気分転換にも散歩はお勧めします。
しかし、家に帰ったらうがいと手洗いはしっかりとしましょう。


【2】基礎疾患のある患者さんの対応方法は

新型コロナウイルスで重症化した患者さんには生活習慣病の基礎疾患のある方が多いとされています。
もちろん通常の風邪の場合でも、基礎疾患のある方は重症化しやすいので特徴的なことではないと考えられます。
また基礎疾患があることが理由で感染しやすいということもありません。
中には外出を控えて運動不足になり基礎疾患そのものが悪くなり、体調を崩される方もいらっしゃいます。
それでは本末転倒です。
感染症を重症化させないためには、基礎疾患そのものを良好に保つことが最も重要なのです。
そのためには、今まで通りの食事運動療法などをしっかりと継続することが大切です。
基礎疾患を良くすることこそが、そのまま感染重症化を防ぐことになることを再確認していただきたいと思います。


【3】日本で新型コロナウイルスが重症化しにくい理由は

統計的には感染者の内、症状を伴う人(発病者)が10-15%程度と推測されています。
つまり1000人の発病者がいれば10000人程度の感染者が潜在していると推測されます。
逆に言うと85-90%の人は発病しない、すなわち既に新型コロナウイルスに対して抗体を持っていると考えられるのです。
あくまで私見ですが、日本人はよく風邪をひきます。風邪が治るたびにその風邪の菌に対して抗体ができます。
こうして過去に作られた抗体が新型コロナウイルスの発病を防いでると考えられます。
実際に通常のコロナウイルスは4種類ありますが、子供などの風邪の原因菌としてありふれたものです。
こう考えると若年者ではほぼ重症化しない理由として矛盾しません。
一方で高齢者や基礎疾患のある方は重症化することが分かっているので注意が必要です。
 ただし、これは新型コロナウイルスの特徴ではなく、一般的な風邪でも同じことが言えます。
昨年肺炎での死亡者数は10万人近くにのぼりますが、ほとんどが高齢者ですので十分な注意が必要であることは当然のことなのです。


【4】いつまで新型コロナウイルスが続くのか

新型コロナウイルスも結局はウイルスの一種ですので、通常のウイルスの広がりから推測することができると思います。
例えばインフルエンザウイルスも梅雨の時期をこえて感染が持続した年はありません。
湿度が高いとウイルスに水が付いて重くなり、空中に浮かぶことができず地面に落とされます。
こう考えると6月ごろには一旦収束すると予測できます。
しかしインフルエンザも全滅するわけではなく、夏には寒冷な地域で生き延びて、秋には再び増加してきます。
また夏風邪などのように、体調を崩した人に感染しては細々と生き続けるウイルスもいます。
もし新型コロナウイルスも広く日本全土に分布すれば通常のコロナウイルスのように風邪の菌の一種類として生き残るかも知れません。
細菌学の視点から見れば、ウイルスは常に遺伝子を変化させて生き残りを図っています。
すなわち常に新しいウイルスが誕生しており、いたちごっこのように人間は対応を迫られるのです。
ですから、新型コロナウイルスに限らず、感染症の予防は日常的に行うことが大切なのです。
恐れるだけでなく、しっかりと感染に対して対応を行うことが必要です。
特に目、口、鼻、皮膚などからの感染を常に意識して予防することが対策の第一歩です。
前回の繰り返しになりますが、うがいや手洗いをしっかりと行うことでほとんどの感染は予防可能なのです。