院長からの処方箋Letter

帯状疱疹ワクチンについて

2023.05.28

最近練馬区などで帯状疱疹ワクチンの補助制度が成立し、ワクチン接種の質問が多くなりました。
しかし、帯状疱疹のワクチンが2種類あるなどの情報が流布され、とても誤解が多いため、今回正確な情報をお伝えします。

帯状疱疹の原因となるウイルスは水ぼうそう(水痘)のウイルスと同じなのです。
水痘にかかると、そのウイルスはその後ほぼ一生の間、体の神経節にとどまり、ずっと一緒にいることになります。
そして、体調が悪くなると神経節から皮膚の表面に出てきて、帯状疱疹を発症することになります。

つまり、水痘にかかっていない人は帯状疱疹を発症することはないのです。
そのため、最近では小児期に水痘にかかる前に「水痘ワクチン」を接種することで、水痘のウイルスが感染しないようにしています。
水痘ウイルスに感染しなければ、決して帯状疱疹は発症しないのです。

ところが、最近では水痘に感染した後でも、「水痘ワクチン」の接種により帯状疱疹の発症をある程度抑制すると認定されました。
しかし、その効果は1年間で「50%程度」の抑制にすぎませんし、2年目以降の効果はさらに低くなります。
「水痘ワクチン」はそもそも帯状疱疹を抑制するレベルが低いために適応がなかったのですが、値段が安いため「帯状疱疹ワクチン」として、行政により認定されることになりました。しかし、効果が少ないのに値段が安いというだけで接種を行うことは、本来の医療として効果も意味もないことは明らかです。

最近では水痘に感染後、水痘のウイルスが体内にいる状態であっても、帯状疱疹の発症を抑制する本当の意味での「帯状疱疹ワクチン」が日本でも発売されました。
そのワクチンが「シングリックス」であり、医学的意味で本当の「帯状疱疹ワクチン」と言えるのはこれのみです。
シングリックスは2か月あけて2回接種ですが、1年間で「93%」の抑制力があり、5年後で「80%」、10年後でも「70%」以上の抑制力があります。この抑制力は「水痘ワクチン」よりも極めて高いことが明らかですが、なぜか公表されていません。それが誤謬の原因となっています。
シングリックスの値段は高いのですが、10年間の抑制力を考えれば、「水痘ワクチン」を毎年接種するよりも費用は安くなります。
今回補助金制度を利用できれば、さらに安く接種できますので、費用対効果を考えれば接種を検討しやすいと思います。

水痘の罹患歴が母子手帳などで確認できれば良いのですが、わからない方は水痘抗体の有無を採血で確認することも可能です。
水痘抗体が陽性であれば、水痘の罹患歴があり、すでに水痘ウイルスが体内にいるので、接種するワクチンは「帯状疱疹ワクチン(シングリックス)」をお勧めします。

以上「水痘ワクチン」と「帯状疱疹ワクチン(シングリックス)」は全く別物のワクチンなのですが、行政では2つのワクチンを区別せずに「帯状疱疹ワクチン」として広告しているため、大変誤解を招いています。これは行政が医療を理解せずに、予算面のみを考えて値段の安いものを優先するために生じる間違いです。

行政の間違いに惑わされることなく、医療として正確な情報を理解して、正しいワクチン接種を行われることを願っております。